悪魔と私

悪魔は、今日のように空を飛んだりガラスをすり抜けたり、

人間技じゃないことをやってのけるので、他の人間と同じように扱えなかったのが、ガードが緩んだ原因かもしれない。


大体、自分の部屋に家族以外を立ち入らせるなんてことはなかった。


悪魔はまず現れたときから私の部屋にいる訳で、最初からガードの中に入り込んでいるのだ。

そして、いつの間にか部屋にいることが当たり前になっていた。



私も変わったのかな。


今更になって気づく。

親密になろうとアプローチをかけてくる人間が、男女問わず嫌いだったのに、なぜか悪魔は別枠になってしまっている。


一緒に居るのを心地良いとは思わないし、今でも独り静かに居たい日もあるが、悪魔が側にいても何も気にしなくなった。


早く帰れとばかり思ってたのにな。



悪魔が、留守番できるということは、契約上の主人である私から離れても大丈夫な訳で。

バイトに出れているということは、呼び出された、私の部屋に留まらねばならないという制約もないということだ。


つまり悪魔は、私と同じ部屋で一緒に暮らす必要はないのだ。



私は望みを言う気なんか皆無なのだから、私が死ぬまでの何十年か、自由に人間界で楽しみを探して過ごした方が良いだろう。



この事に気づいたとき、私は悪魔を追い出すことが出来たはずだ。

でも今も追い出していないし、なぜかその気もない。


悪魔も、私の部屋を出ていこうとしたことはなかった。



やっぱ、変わったな私。


自己分析を終えて、バスルームを出る。



「長かったな」

「そう?」

「ま、いーや!紅茶煎れたから飲もうぜ!」



なんか、よく懐く"弟"みたいだ。

弟なんかいなかったけど。


私は、ぼんやりそんなことを思いながら、悪魔から紅茶を受けとる。

すると、悪魔はなぜか目を見開いた。



(……初めて笑ったとこ見た)

「え?なんか言った?」



紅茶を受け取るとき微笑んでいたことに、自分でも気づいていなかった私は、

悪魔が何に驚いていたのかなど、知るよしもなかったのだった。


< 16 / 30 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop