悪魔と私
2
「なんだこれ」
せっせと畳をあげて、掃除機をかけていると、なにやら畳の裏からA4サイズ程の紙が剥がれ落ちたので拾い上げる。
紙には、円の中に五芒星が描かれており、その周りに何やら見たこともないような文字が並んでいた。
紙は、結構新しく綺麗なので、前の住人の物だろう。
前の住人は魔術師にでもなりたかったのだろうか。
馬鹿らしいと、見たこともない住人を切り捨て、私は掃除を再開しようと紙をゴミ袋に捨てようとまるめた。
「痛っ」
紙をまるめた拍子に手を切ってしまった私は顔を歪める。
ついてないな。
紙をゴミ袋に投げいれながら、私は指をつまみ、圧迫した。
すると突然、視界に霧がかかったように白く霞んだ。
なにこれ、こんな少量で貧血?
私は頬を叩いて、意識を正常に戻そうと試みる。
しかし、視界の霞みは貧血ではなかったらしい。
「よう。呼ん……」
目の前に突然現れた黒ずくめの男が何かを言い終える前に、私は近くにあった畳を持ち上げ、振り下ろした。
バコッと鈍い音がして、腕にも衝撃の反動が伝わる。
どうやら効いたようだ。
私は念を入れて、もう4、5回畳を振り下ろし、様子を見ようと畳を置いた。
いつの間にか視界の靄は晴れている。
黒ずくめの男は鼻と頭をおさえてしゃがみ込み、こちらを涙目で見上げていた。
「テメエ。俺の高い鼻が縮んだらどうしてくれんだよ」
「やだ。まだ意識あるの?」
鼻血こそ出ているが、元気な男に、私は再び畳を持ち上げ振りかざした。
「おい!やめろって!」
男は慌てて、私から畳を奪いとり、そっと壁にたてかける。
「いい加減にしろよ、これ以上叩かれたら、怪我すんだろうが」
「そうね。貴方が意識を失ってる間に警察を呼んで、身柄を引き渡すつもりだったもの」
「アンタ。畳で叩いたのは、咄嗟の防衛反応じゃなくて、意図的な攻撃かよ。ヒデー女だな」
突然現れた、変質者に、"ヒデー女"呼ばわりされる筋合いはない。
失礼な男を、私は睨みつけ、鞄の中から携帯電話を取り出す。
ロックを解除し、110と打ち込んだ。