悪魔と私

話を聞くと、難儀な事に、呼び出された悪魔は、行きと同じ道を通らなければ、帰れないらしい。


行きに強い力で作られた道を通って来たらしい男が、その道をもう一度通って帰るには相当な力がいるのだという。

高位な魔法陣なら、なぜ見習いが来るのか。私は、誰に言えば良いのかわからない文句を飲み込む。


そして男に尋ねた。



「貴方が帰るには、私はどれくらいの望みをいえばいいの?」

「最低でも、魂を半分くらい頂くに値する望みがいる」

「半分!?」

「ああ。なんかないか。一世一代の願い」



男が、ほらほらと手を伸ばす。私はその手を払いのけた。

そんな気軽に一世一代の望みが言えるか。

というか、そんな望みはない。

嘘をついて叶えてもらってもいいが、嘘の望みの為に魂を半分も取られるのは御免だ。


男によると、魂を半分とられたくらいじゃ死なないが、運気や生気が、がっくり落ちるらしい。

つまり生きる力が半分になるのだ。

それは遠慮したい。



「これからよろしくね」

「はあ?」



私が無表情のままそう言えば、男はマヌケな声をあげた。

ポカンと口をあける男に、私は追い打ちをかける。



「私、そんな大きい望みってないから。貴方は当分帰れないってこと」

「そんな!嘘だろ!」

「嘘じゃないわよ。ご愁傷様」



嫌なら出てけ。
魂半分もとられるなんて御免だ。


見習い卒業の目前で、私みたいなのに当たるなんて運が悪い悪魔だ。


怨むなら、魔法陣を描いた、この部屋の前住人を怨んでくれ。


私は男、いや、悪魔に手を合わせたのだった。

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