悪魔と私
ふたりぐらし
1
「なあ、この部屋、客用の布団ないの?つか、部屋狭すぎじゃね?」
「おい、アンタ。アイマスクに耳栓にマスクなんて、完全装備だな。怖いぞ。あと暑苦しい」
「アンタ、綺麗だけど彼氏いないだろ。絶対」
五月蝿い。
実に五月蝿い、この悪魔。
外でわんさか鳴いてるセミの方がマシなくらいだ。
私は完璧に真っ暗で静かな環境にならないと眠れないのに。
セミの声は耳栓でシャットアウト出来るが、悪魔は耳栓をしている私に配慮(?)して、頭の中に直接話しかけてくるので効果がない。
先程の夕食時に、悪魔は食事を必要としないことが分かり、食費が増える心配もないし、いないものとして考えれば、一緒に暮らすのもいいか。
なんて妥協したのだが、撤回だ。
こんな五月蝿い男を、"いないもの"として扱える訳がない。
「なあなあ、俺もベッドで寝かせてくれよ。タダでイケメンと添い寝できる機会なんて、そうそうないぜ?」
「暑いから無理」
確かに男、いや、悪魔は、人間離れした整った顔をしているが、私は興味がない。
この暑いのに、何が悲しくて添い寝なんかしなくてはいけないのか。
きっぱり断る私に、悪魔は食い下がる。
「大丈夫だって。ほら、俺、悪魔だから体温低いし」
「それでも、無理。側に他人がいたら寝れないから」
「えー。頼むよ。床じゃ寝れねえよ!単でさえ、俺、さっきまでたっぷり昼寝したから眠くねえのに」
ガキか!
というか、悪魔って何。そんなに暇なの?
見習いなら、修業するなりなんなり、何かやることはないのか。
悪魔の世界はどうなってるんだ。
「ねえ。私、貴方みたいに暇じゃないの。明日は仕事だから早く寝かせて」
「なんだよ。俺を暇にさせてるのはアンタだろ」
「私は事故で、貴方を呼び出しちゃっただけだし、私が引き止めなくても、普段から、たっぷり昼寝できるくらい暇なんでしょ」
「なんだよ!それ!心外だ」
「五月蝿い。もう黙って。おやすみ」
いよいよ鬱陶しくなった私は、それだけ言うと、タオルケットを頭まで被り、悪魔に背を向けた。
悪魔はチッと舌打ちしたが、ようやく諦めたようで静かになってくれた。
私はゆるりと、眠りについたのだった。