ハートの形した花
それでも、みんなは何も言わなかった。
いや、言えないくらい忙しかったのだ。
俺は、衣装の相生を手伝い、買い出しがないときは、白石が西田を手伝うという形で何とか6月4日の本番を目指すことになった。
「お兄ちゃん、そこ返し縫いしないと・・・」
「ああ、こうか」
みたいなやりとりがあると、相生のお母さんはお茶を持って来ながら、
「本当の夫婦みたい。本当に結婚しちゃえばいいのに」
とみんながいる前でも平気で言い、俺をヒヤヒヤさせた。
ほんと、勘弁して欲しい。
第一、俺はもう相生とはなんともないのだ。
「ほら、お兄ちゃん、手が止まってる」
ほんと、喋る暇も、考える暇もない。