ハートの形した花
ここを出る
九の家は、俺の隣にあった。
ちょうど俺たちが帰ってきた時に引っ越しが終わって、トラックが帰るところだった。
そういえば、隣は空き家にはなっていたが、まさかそこへ九が住むとは思ってもみなかった。
それよりも俺が一番気になったのは・・・
「お前、今日、どっから学校来たん?」
「ホテル。ほら、あの紅葉軒沿いの道にあるあそこ」
紅葉軒は、この安出川を草冠が流れてった方へと辿っていくとある、焼肉と寿司の食べ放題の店だ。
ここへ来たばっかりの九が紅葉軒の存在を知っていることから察するに、昨日の晩飯は紅葉軒だったに違いない。
九の家の前ではお父さんらしき人が玄関に花の咲いた植木鉢を置いていた。
「兄弟は?」
「一人っ子で二人暮らし」
父子家庭というやつか。
「ただいま」
「佐和子か。お帰り」
九のお父さんは九とは対照的に、優しそうで真面目そうだった。
「佐和子のお友達かい?」
「ううん。隣の席になったやつ。家も隣なんだって」
「あ、どうも。佐和子がお世話になります」
お父さんにつられて、俺も会釈をする。
「じゃ、また後で」
そう言って九はお父さんと一緒に家へと入って行った。
俺も、自分の家に帰ることにした。