極彩色のクオーレ
「まあ、ビジュが誰との間に産まれたのかなんて、本当のことを知らなくたっていいよ。
ひとまず人間だから親もちゃんとした人間だろうし。
ビジュはこの街に来るたびに、面白い人形劇をしてくれる道化師。
俺はそれだけで十分満足だね」
「なーにかっこつけた言い方してんだよお前」
「そうそう、『俺あいつの正体がすっごく気になる』っていつも言ってるじゃん」
「言うな、バカ!」
子どもたちがじゃれ合う声、笑い声が、広い丘に散っていく。
陽がかなり落ちてきたところで、道化師は彼らに帰るように促した。
「さあ、もう暗くなるからお帰り」
「ビジュはどうするの?」
「ぼくはこれから、隣の町へ移動するよ。
今夜ここに泊まっていたら、お話の結末を聞きたがる子たちが家を抜け出して集まりそうだからね」
ぎくりと、何人かが図星をつかれたようで肩を跳ねさせた。
ビジュは小さく笑うと、切り株から腰を上げた。
「次はいつ来てくれるのさ~」
「俺ら話忘れちゃうよ」
「いつだろうね、ぼくの気が向いたらかなあ。
でも、いつまでもお家に帰ろうとしない悪い子がいっぱいいる街には、もう来ないと思うよ」
子どもたちが、慌てた様子で家路についていく。
最後の一人の姿が見えなくなってから、ビジュも歩き始めた。
ひょうきんな笑顔を浮かべているお面を外す。
「……あ、このお話はたくさんの小さな幸せを生む結末を迎えるってことくらい、ヒントで教えてあげてもよかったかな」
夜の匂いを乗せた風が、丘から滑り降りる。
さまざまな色を宿す隻眼をもつ道化師の胸で、黄色い針のペンダントが揺れた。