極彩色のクオーレ
タイミングが良く、食堂には誰もいない。
忙しいところが一段落したようで、女将がタオルで手を拭いていた。
少年に気づき、目元にシワをつくって微笑む。
「あら、おはよう、修理屋さん」
「おはようございます。
これとこれ、直しておきましたよ」
よいしょ、と、少年は持っていた大きな桶と2本の傘を置いた。
女将が台所からパタパタ出てくる。
「あらまあ、毎日ありがとうね」
「いえ、タダ同然で泊めさせてもらっていますから、これくらいはやりますよ。
他に直す物はありますか?
今日で多分、ルースを離れると思うので」
「ああ、セドナとの約束。
確か今日だって言っていたわね」
台所の奥まで桶を運んで、少年はこくりと頷いた。
セドナが飾り職人として認められた日、彼に『3日待ってくれ!』と言われた。
その三日目が今日。
少年はセドナの用件が済んだら、ルースを出るつもりでいた。
一つ『心』を覚えたし、探しているマスターはここにいないどころか、彼と思しき者が訪れたという話すらない。
それが、街を出る理由だった。