極彩色のクオーレ





やがて石垣が見えてきた。


街にはランプよりも濃い臙脂の光が闇を照らしている。


暗い森側と明るい街側の境目は、まるで別世界の出入り口だ。


畑に挟まれた太い道にさしかかったところで、セドナが少年を止める。



「ここら辺でいいよ。


もう明るいし、変な獣に襲われる心配もない」


「大丈夫ですか?」


「だーいじょぶだって、俺だって男なんだぞ」


「……分かりました、それでは」


「あっ!ちょっとストップ」



踵を返そうとした少年をセドナは片手で制する。


忘れてた忘れてた、と言いながら、鞄から小さな薄緑の箱を出した。


リボンでかわいらしくラッピングしてある。



「これ、約束の三日目」



少年は受け取り、リボンをほどく。


中には綿が敷き詰められ、その中央にピアスが1つ、くるまるようにして置いてあった。


細かく煌めく黒い石は、牙の形をしている。



「色々と、助けてもらったからな。


お前が居てくれたおかげで、俺はこうして飾り職人として働けるようになれた。


……そんで、それはその礼だ」



少年はピアスを手のひらに転がす。


角度によって煌めきが異なるそれは、星が瞬く夜空の端を切り取ったかのようだ。



「石は黯燐石(こくりんせき)で、意味は『幸運』。


右耳につけるといい運が呼び込まれる、パワーストーンってやつだ」


「ありがとうございます。早速付けさせてもらいますね」



「……それはこっちの科白だ、バカ」


「何か言いましたか?」


「なっ、んでもねえよ!」



セドナがぶっきらぼうに言って顔を背ける。


きょとんとする少年の右耳で、幸運を招く黒石がきらりと光った。


遠くから獣の啼声が届いた。









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