極彩色のクオーレ
* * *
翌日、少年が目を覚ましたときには、既に『天才』の姿はそこにはなかった。
まだ夜が明けたばかりの、鳥のさえずりが聞こえる静かな時間帯。
ゆっくりと昇ってくる朝日の白い光に、照らされるすべてのものが洗われていく。
寝室の両端にあるベッド、少年が使っていない方のベッドがもぬけの殻だった。
いや、もぬけの殻どころではない。
寝具がすべて取り除かれ、木の骨組みしか残っていないのだ。
その近くに置いてあったはずの、彼の鞄も見当たらない。
少年は起き上がり、ベッドから離れた。
ドアを開けて、隣の部屋を覗く。
東側の窓から真っ白な光が差し込み始めていた。
視界が悪くなるので、顔の前に手をかざし、影をつくって目を凝らす。
丸テーブルと二つの椅子。
簡易ながらもしっかりとしたつくりの台所。
2人分の食器をしまってある棚。
昨夜と変わっていないのはそれだけだった。
部屋のあちこちに転がっていた部品や資材も、床の半分近くを埋めていた設計図も。
隅に並べてあった完成品の人形も、製造途中だった人形も。
洋服掛けに掛けてあった上着も、開いたままのクローゼットの中身も。
何もなかった。
この小屋を『天才』が使っていたという気配は、ちっとも感じられなかった。
まるで最初から、少年一人だけが住んでいたような、そんな錯覚さえ覚えてしまう。