極彩色のクオーレ
3台の荷車を見送り、青年と老人も歩き出した。
太陽がいちばん輝いている時間帯だが、木々が傘となっているので苦痛はない。
「思わぬところで時間くっちまったなぁ。
まぁ別に急ぎじゃねえし、小金稼げたからいいんだけどさ」
青年は小袋を懐にしまってキャスケットを脱いだ。
すると、そこに隠していた三つ編みの長い緑髪が現れ、黒いコートの背中に垂れた。
ポケットからハンカチを取り出し、木くずの汚れがついた眼鏡を拭く。
横に並ぶ老人は、サングラスを押し上げて彼を見た。
「どうして嘘をついたんだい?」
「何の?」
「人形職人でないということと、『天才』じゃないという嘘だよ」
「え、そんなの当たり前だろ。
面倒なことになるのは目に見えているし、変な先入観を持たれるからムカつくし。
おれに何のメリットもないからさ」
「ははは、情報の少ない有名人ゆえの悩みか……。
でも、わしには教えてくれたな。
君がかの『天才』と呼ばれる男だということを」
前方に、進路を塞ぐように倒れる大樹があった。
明らかに老朽化などで自然に倒れたようには見えない、迷惑なことこのうえない。