極彩色のクオーレ
眼鏡をかけ直し、青年は小走りで倒木に近づくと、背負っていた大きな鋏を手にした。
まるで紙のように幹に切り込みを入れて折り、てこの原理を応用して丸太を器用に道の脇に寄せる。
老人が追い付いたときには、道は馬車が通れるくらい広くなっていた。
「だっておれ、事故ではあったけどじーさんの秘密を見ちまったからな。
そんでそれに興味をもって、こうして一緒に旅してるんじゃん。
おれだけ知っててじーさんが知らないなんて、不平等すぎるだろ?」
「わしは君が逃げることも言いふらすこともせず、ただ好奇心だけでついてきてくれるだけで嬉しいよ。
見た人間は、必ず恐怖に駆られてどこかへ走り去るか、わしを殺そうとする。
だからこんなに老いぼれてから珍しい若者に会えただけで、わしにとっては満足なんだよ」
「ははっ、そりゃあ当たり前だろ。
あんな話を聞かされて、『へえそうなんだ』で流せるほど、おれは無関心じゃないんでね。
でも、じーさんの話がマジだとは思わなかったな。
身を持って体験したはずなのに、いまだに信じられないや」
取っ手をくるりと回して、青年は鋏を背負い直す。
老人は年季の入ったキセルに火を点け、空へと紫煙をくゆらせた。