極彩色のクオーレ
「それで、今日は何を買っていくんだい?」
タオルで顔を拭き、腰に手をあてて女将は店を見回す。
ティファニーは鞄から財布を取り出し、紙幣を女将に渡した。
いつものやり取りである。
「これで秋野菜と、果物をお願いします」
「はいよ、ちょっと待っててね」
出入口に積まれた籠をひとつ持って、女将が奥へ走る。
店先では邪魔になるので、ティファニーは隅に寄って待った。
何もせず立っていると、自然と意識は耳に集中する。
周りの音や声が近くなったような気がした。
すぐそばで話しているせいなのか、二人の主婦の会話が入ってくる。
聞き耳をたてているわけではないけれど、少し申し訳なく感じた。
しかし、こういうときほど蓋をするのが難しい。
「……らやだ、ここも少し高いわね」
「仕方ないわ、今年はどの店もこんな感じよ。
冬がちょっと心配ね」
「肉屋も値段が上がっていたし……しばらくは節約ね」
「それはいつでも心がけるところじゃないの?」
「いつも以上にってことよ。
あの人が来てくれてからは少し安心だけど、足りていないことには変わりないからね」
「本当、一時はどうなるかと……」