極彩色のクオーレ
「本当はもう少し安く、できれば今まで通りの値段で売りたかったんだけど、そうもいかなくてね」
「原価が高くなっているせいですか?」
「それもそうだけど、肉屋も値上がりしているだろ?
ウチの家計も難しくなっててねぇ」
「あ、猟師の誰かが話していました。
食用獣が減っているんでしたっけ」
「そうなのよ、おまけに荷車を襲う凶暴な獣まで出ているらしいんだよ。
しかも、とてもじゃないけど食用にはできない獣ばかりさ。
今年の冬は寒さも厳しいっていうのに。
悪いことは積み重なって起こるってのは本当なんだねえ」
大して寒くもないのに、女将が袖をまくった腕をさすってわざと震える。
その声色が面白くてティファニーは小さく笑った。
2人の話を聞いていたらしく、別の主婦の声が聞こえてくる。
「でも女将さん、今は安心ですよ。
あの人が来てくれたおかげで、少なくとも隣町や隣村からの食糧や資材が届かなくなる心配はありませんから」
「ああ、そうだったわね」
女将とその主婦は、顔を見合わせてカラカラ笑う。
店の雰囲気に合った明るい声だ。
ティファニーは首をかしげ、笑声がやんでから尋ねる。
「女将さん」
「はいよ」
「あの、その『あの人』って、誰のことですか?」
「んまあっ、ティファニーちゃん知らないの?
『あの人』というのは……」
主婦が説明する前に、通りの一角が大きく賑わうのが、空気を伝って届いた。
おっ、と女将が嬉しそうに言う。
「噂をすれば、何とやらだね」
店内の人々が入口に集まるのを肌で感じる。
ティファニーはさらに端に身を寄せ、彼女らが注目しているであろう方向へ顔を向けた。