恋と呼ぶにはまだ、
恋と呼ぶにはまだ、
「よくわからないんだよな、そういうの」
彼は階段に腰を下ろしていた。私は壁に背中を預けて彼よりも数段下の階段で嘘っぽい、と思った。
だって、彼は人気なんだもの。
中学生にもなれば、好き嫌い云々の話で盛り上がることなんていくらでもあるし、それはなにも女子だけのことではないだろう。男子だって、馬鹿馬鹿しいことばかりやっているようにみえて、密かに話していることを女子は知っている。
「それがきっと、ウケるんだって」
「うける?」
「何だか、浮世離れしてるみたいに見えるし。頭もいいし、スポーツだって出来る転校生」
「半年もいるのに、未だに転校生かよ」
彼は半年前に転校してきた。まだ成長中の同級生に比べて、彼はずいぶん大人っぽい雰囲気のある転校生だった。
雰囲気のある、だなんていう表現だってなんだか別次元のなにかのよう。でも、彼にはそれがぴったり当てはまった。彼はまだ、転校生のままなのかもしれない。
彼は、自由だった。
平気で遅刻をし、授業中別の本を読んでいたりと、その自由さが、都会じみて見える。ただの不真面目なのに、と彼は笑った。
それが、ウケるというのだ。
何処と無く、不良の匂いがするような。
本当の不良じゃだめなのだ。不良の匂い、でなくては不良と縁が遠い普通の女子らは食いつかない。
都会の雰囲気に、少し不真面目という不良の匂い。それらは同年代の子がファッション雑誌を飾り、特集を組むようなそれらに重ねるのだろう。
あんなの、参考にはなるけど、非現実めいて響かない。
あれはだって、都会、だから。