恋と呼ぶにはまだ、
「ならお前はなんなんだ?」
「何なんだろうね、ほんと」
―――真奈美ってさ。
私が思っていることは、同級生にとってつまらないものばかりだ。私からすると、似合わない化粧やお洒落の誉めあいのほうがげんなりとした。お世辞の言い合いをして、群れて、仲間つくって、わたしは平気です、と主張しているそれが、私を冷たくさせていく。都合のいい人形?うわべだけなら、得意だ。へらへらして、適当にしておけば、なんとかなってしまう。
そうして、向こうが勝手に作り上げる私のポートレートが定着していくのだ。
それが、私。
腹立たないのかよ、と彼がいう。
腹立つよ、と私は返す。
当たり前じゃないか、と。
半年前、彼は都会から転校してきた。
テレビでよく見る、転校生がやってきたときのクラスの光景が、いざ自分のクラスで、目の前で起こるとなんだかおかしかった。みんな浮き足立ち、ひそひそとし、にやにやするのを隠しながら、隠しきれていなかった。
先生さえ、滅多にないそれに戸惑いが見えていた。黒板に書いた先生の字と、彼の名前。
名前にすら、なんだか特別な感じがして、これが転校生なのか、だなんて思った。
クラスで一人は必ずいる、フレンドリーな態度で接してくる人を皮切りに、彼のまわりには人がたくさん集まった。それもしばらくすると落ち着いたが、かわりに一目置かれるようになった。あいつは、都会から来たんだもんな。そんな会話が何処かでされていた。
体育も、勉強も出来る転校生。
それが何だというのか。わたしは一人、図書室でぼんやりしながら思う。彼の、何がそんなにクラスメイトの心をざわめかせるのだろう。転校生だから?転校生。同級生という言葉よりも断然、特別な気がしてくる言葉。だけど、違う。そうじゃない。
転校生は転校生でも、彼が、それなりに秀才だったからだ。容姿といい、勉強の出来といい、それらが子供っぽい同級生の男子よりも大人に見えて、惹かれたのか。
わからない。
それがはたして、恋と呼ぶものなのか。
私は、わからない。恋。それって、なんだろう。
クラスメイトの女子を見ているとわかる。
ああ、この子はあの人が好きなのか、と。
それは勘、といってもいい。だから、それがわかると私はその人らにあまり近寄らない。とくに男子には。
女子は、怖いのだ。目で、人を殺せてしまうのではないかと思うようなそれに、私はまだ殺されたくなかった。殺されてたまるか。私はそんな、嫉妬に焼かれるのはごめんだったし、巻き込まれるのも嫌だ。