恋と呼ぶにはまだ、





 *



 本が好きで、図書室に私はよくいる。
 勉強は嫌いじゃないが、それと成績は繋がらない。
 それにたいして親が勉強しろとうるさくいわないのは、幸せかもしれない。




「―――私は、私が嫌いなの」
「どうして」




 ふらりと図書室に入ってきた博人に、私はそう告げた。

 可愛らしさなんてない。かわいこぶる自分が、気持ち悪くてならない。
 同級生らが自分の顔に必死なのにたいして、よくそんなに鏡を見ていられるなと関心してしまうほどだ。私は、そんなに長く見ていられない。鏡の縁が、まるで額縁に見えて、私はぞっとする。醜い。けれどまだマシじゃないか、と思ってしまう自分が、嫌いで。

 狭く手入れのされていない、図書室の机で「だけど、自分の主人は自分しかいないんだぞ」と、彼はいう。



 わかってる。

 だから、私は私がわからなくなる。
 へらへらしている私が、本当の私なのか。妙に勘ぐってくる同級生に、否定を返しながら、笑う私が私なのか……。


 誰かから、認められたい、存在しているって証明してほしいと誰もが思っている。自分は自分、というそれがしっかりしている人はなかなか居ない。私はだってそうだ。揺れてばかりだ。


 ああ、本当に。



 女子に「博人君と仲いいよね」などと、嫉妬に似た何かをぶつけられるたび、私は彼を浮かび上がらせる。
 高い身長に、綺麗な肌。喉仏。ほっそりとした指と、意外に鍛えているらしい体。
 指が、私から本を奪っていくあの寸前まで、私は鮮明に思い出す。


 まさか。そんな。
 ぱたり、という音を立てて本が閉じられた。
 ……変態くさい。


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