10円玉、消えた
「おい、いつからだ?」
菓子屋の店主が二人に聞く。

「さっきだよ、さっき」
と靴屋が答えた。

「じゃまだ当分は終わらねえな」
菓子屋はどことなく楽しそうな表情だ。

その顔を見て靴屋は「ちっ、他人事だと思ってよ、いい気なもんだ」と腹の中でボヤいていた。

「今日はどのくらいやるんだろ?」
と煙草屋が言う。

「さあな、少なくとも一時間は覚悟しなきゃな」
靴屋は呆れ顔で言葉を返した。



丁度そのとき、一人の中学生がその三人の集まるところに近づいてきた。

その少年が笠松竜太郎である。

「こんちわ」
竜太郎は元気に挨拶する。

「いま学校の帰りかい?リュウちゃん」
と煙草屋。

「はい、そうです」

「リュウちゃん、またやってるよ、お前んとこの父ちゃんと母ちゃんが」
菓子屋が苦笑しながら言う。

「またですか?」
竜太郎はうんざりした表情だ。



「だから黙ってろって言ってんだ!」

「黙るもんか!あんたが正直に言うまでは絶対引き下がらないからね」



二人の言い争いが、確かに竜太郎の耳に入ってくる。

これは居間ではなく、店舗の方でやり合っているんだなと察しがついた。

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