10円玉、消えた
「いつもすいません。お騒がせしちゃって」
竜太郎は頭を下げた。
三人に対してというよりも、やはりお隣りの靴屋に対してである。

「そんなの別にいいけどさ。それよりリュウちゃん、店の入口から入らんほうが良さそうだな」
靴屋屋もまた、二人がどこでやり合っているのか知っている。
毎日聞かされているため、そのあたりの判断がすぐできるようになってしまったのだ。

「わかってます。もう慣れてますから。裏の勝手口からこっそり入りますよ」
竜太郎がため息混じりに言う。
そして軽くお辞儀をして、三人から離れていった。



彼の背中を目で追いながら、菓子屋は憐れみの表情を浮かべる。
「リュウちゃんも気の毒によ。両親があんなじゃなあ」

「いや、問題はゲンさんの方さ。サッちゃんはしっかり者だからよ。まあ、だからああしてダンナにギャーギャー言っちゃうんだろうね。ゲンさん頑固だから、サッちゃんももう少し言いたいこと我慢すりゃ、こんな言い争いにゃならないんだけどな」
靴屋はまるでカウンセラーのような口調で語った。

「ゲンさん夜遊び好きだからなあ。でも前はあんなじゃなかったのに。なんでなんだろ?」
と煙草屋。

< 12 / 205 >

この作品をシェア

pagetop