10円玉、消えた
(そして現在)
竜太郎はフッと我に帰る。
リビングで一人寂しく水割りを飲んでいる最中だった。



また昔を思い出しちまった。
里美が出ていってから、頭に浮かぶのは昔のことばかりだ。

しかも全部中三から高三までのことだ。
なぜその時期ばかりを思い出すんだろう?

そうだ、あの“昭和五十二年の10円玉”を見つけたからだ。
あれが元なんだな。

まあホントにあの時期は色んなことがあった。

親父が突然失踪し、お袋が助っ人に来た10以上年下の男とくっ付き、そいつに店を譲渡。
よくまあ俺もグレずにいられたもんだ。
ホントにタカさんや薫には感謝してる。

その薫も地元の公務員と結婚していまや二児の母親だ。
タカさんも二児の父親だもんな。
なのに俺は一人…

27年前に一人で上京し、またいまは一人。
双六の振り出しに戻るってヤツか…

27年前の俺は漫画家を目指し物凄く燃えていた。
でもコンテストにはことごとく落選。
しまいにはアイディアやストーリーが何も浮かばなくなり、結局たった三年で漫画家を断念した。

同時に工場も辞め、暫くはフリーターをやった。
次の目標を探し、行き着いたのがいまの会社だ。


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