10円玉、消えた
そもそも里美への未練はまだ充分あり、それを無理矢理抑えつけていたかたちだ。
それがサオリの顔を見た途端堰が切れ、心の中がガタガタになってしまったのである。



くそっ、なんでこんなことになるんだ。
漫画家になる夢が消えた後も、俺はクサらずに必死に頑張ってきた。
そのおかげで、いまの会社に入ってからは全て順調に来ていたじゃないか。
なのに…

確かに仕事仕事で里美には大したことをしてやれなかった。
あいつが不満に思うのも無理はない。
でも亭主が一生懸命働いて何がいけないってんだ。

それに里美のヤツ、過去にも何度か浮気してただと。
俺が汗水流してるときにあいつは…

それで結局は“お世話になりました”か。
なんて身勝手なんだ。
くそっ、あんなヤツと結婚したのは間違いだった。

なのに…
ちくしょう!
俺は、あいつがいなくなって寂しい。
なんでこんな風に考えちまうんだろう。
“最低の女だ”て割り切ってしまえばいいのに、それができない。
こんなんで俺は立ち直れるんだろうか…

まさか、会社員になる道を選んだのは間違いだったってのか。
わからない…
くそっ、どうすりゃいいんだ…



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