10円玉、消えた
「あの、失礼ついでに、まさか幽霊かなんかじゃないですよね」

「ハッハッハッ、ちゃんと手足は付いておる」

「三間坂さん、あんたは一体何者なんですか?」

「まあわしのことは後じゃ。それよりも竜太郎君、奥さんに突然出ていかれて大変じゃのう」

「え?なんでそれを?」

「わしには全てわかっておる。最近君がヤケになってることもじゃ。奥さんがいなくなったショックはわかるが、このままでは何にもならんぞ。過ぎたことはもう忘れて、そろそろ前向きにいかんとな」

「それは自分でもわかってるんですが…どうしたらいいか考えつかなくて。情けないなって思いますよ」

「いや、人間なんて所詮弱い生き物じゃ。ちょっとしたことでも落ち込んで、なかなかそこから抜け出せんもんなんじゃ。じゃが何か“きっかけ”を掴めばあっという間に這い上がることもできる。そこが人間の素晴らしいところじゃ」

「“きっかけ”ですか…俺にそんなのがありますかね」

「ずいぶんと弱気じゃのう、竜太郎君。15歳の頃の方が、君はもっと逞しかったぞ。ここ20年運に恵まれすぎて、どうやら打たれ弱くなってしまったようじゃのう」

「悔しいですが、その通りです」

< 130 / 205 >

この作品をシェア

pagetop