10円玉、消えた
「じゃが君はまだ運に恵まれておる」

「え、こんなになってもですか?信じられないですね。一体どんな運があるんですか?」

「10円玉じゃよ」

「10円玉?」

「そうじゃ。何日か前に君は10円玉を見つけたじゃろ」

「あ、あの“昭和五十二年”と表示されたヤツですか」

「さよう。その10円玉はの、実は31年前に君があの公園で無くした10円玉なんじゃ」

「えぇっ!」



31年前の“10円玉占い”で竜太郎は手元を狂わせしまった。
そのために草むらの中に転がっていった10円玉は、翌日早朝犬の散歩に公園に立ち寄ったお婆さんに拾われた。
登校時に公園に寄った竜太郎は、約1時間の差で探し出せなかったのだ。
その10円玉は、一旦お婆さんの財布の中へ。
そして他の硬貨と紛れ、今度はお婆さんがお小遣いとして渡した孫の手に。
次にその孫がお菓子を買った際、10円玉は菓子屋のレジの中に…

こうして無数の人の手から手へ渡り歩いた10円玉は、31年というとてつもなく長い旅を経て、竜太郎のもとへと帰って来た。

まさに偶然中の偶然。
宝くじに当たるよりも確率の低い偶然が、竜太郎の身に起こったのである。



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