10円玉、消えた
老人のその言葉に、竜太郎は何も言い返せなかった。

「結果の良し悪しだけで、自分の進んで来た道をただ悔やむ。どうじゃ竜太郎君、あのときの君のお父さんと同じだと思わんか」

まさにその通りである。
31年前、あの公園で老人を罵っていた父のみっともない姿が頭に浮かぶ。
あれ以来、竜太郎は父親のことを益々軽蔑するようになっていった。

「おっと、時間を余分に食ってしまったようじゃ。そろそろ電話を切らんとな。わしゃ他にも面倒を見なきゃならん者がいっぱいおるんじゃ」

「じゃあ今回の10円玉占いはどうすればいいんですか?」

「わしが電話を切った後にでも一人でやってみなさい。どうしても気が進まんのならやらなくてもよい。それは君の自由じゃ。ではまたな、竜太郎君」

電話は唐突に切れた。



どうすればいい?
本当の成功の道は、ラーメン屋と会社員のどっちだったのか、それをいま知るべきなのか?

里美のことをグチグチと思ってるだけのいまの俺にとって、結果を知ることは何かしらの導きにはなるだろう。
但し、結果が会社員ならば立ち直る大きなきっかけになるが、ラーメン屋だとしたらいまより遥かにタフな精神力を要するのは確かだ。



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