10円玉、消えた
だがこのままでは何もならない。
あの情けない親父と同じだ。

それにきっと、俺はいま10円玉占いをしなければならない。
なぜなら、31年前の10円玉が帰って来たなどという奇跡が起こったのには、何かしらの意義があると思えるからだ。

よし、一丁やってやる!



竜太郎は意を決し、パソコンの脇に置かれていた“昭和五十二年の10円玉”を手に取る。
そしてそれを右手親指で強く真上にはじいた。
今度は失敗しないでうまく上がる。

間もなく10円玉が落下。
それを両手で挟むようにキャッチ。
そのまま右手を上、左手を下にする。

さあ、いよいよだ。

竜太郎は思わず唾をゴクリと飲んだ。
そして右手を離す。

左手に乗った10円玉は平等院の面であった。

平等院、つまり“ラーメン屋”である。


ある程度覚悟していたとはいえ、ショックはかなりのものだった。
竜太郎はしばし茫然とする。

だがやがてふと、あれ?と首を傾げた。

ラーメン屋になることはかつて竜太郎自身が考えていたことのはず。
だが源太郎が突然家出し、幸子は杉田に店を譲る。
つまり自分の意志でその道を選ばなかったのではなく、状況によって選べなくなったのだ。

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