10円玉、消えた
なのに運命は“ラーメン屋”の方を支持していた。
源太郎が占いの結果と違う方を選んだのとはかなり異なる。
どこかでその機会を見逃していたとでも言うのだろうか?


それともやはり、ラーメン屋は跡を継いでやるのではなく、自分の店を出すということだったのか?
すると、高三の時に漫画家の方を選んだのが分岐点ということになる。

しかしよく考えてみると、店を継ぐチャンスが全くなかったわけではない。
それは竜太郎が上京して三年後に、漫画家を断念したときだ。

丁度そのとき『らあめん堂』は大変な事態になっていた。
あの杉田が『らあめん堂』を手放したのだ。
他市の繁華街にいい物件が見つかったためである。

しかも杉田は、その一年前から密かに年下の女性と付き合っており、店を出して間もなく結婚。
幸子は完全に裏切られた。

『一番軒』の山村もこれには呆れるばかり。
そして責任を感じて、再び『らあめん堂』に助っ人を差し向けて何とか再興に当たろうとするが、傷心した幸子にはすでにその気力もなかった。

従って、『らあめん堂』が宙に浮いていたその時期こそ、まさに竜太郎が店を継ぐ絶好の機会だったのである。

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