10円玉、消えた
だが漫画家の夢破れ、暗中模索する竜太郎に『らあめん堂』のことは全く眼中になかった。
彼の中での『らあめん堂』は、幸子が杉田に譲渡した時点で終わっていたのだ。

ましてやラーメン作りにド素人の竜太郎が、修行もせずいきなり店主になれるはずもなかった。
とにかく全てが遅すぎたのだ。



ではこれから一体自分はどうすればいいのか?と竜太郎は考える。

占いの結果に従ってラーメン屋をやるべきなのか。
だがそれには、この“営業部長”という地位を捨てなければならない。
そんなことは無理だ。

それに、成功する道がこれだと言われて、あっさりそれに従う気もない。
なぜならそれは自分で決めた道ではないのだから。

ではどうする?
このまま会社員を続けていても、里美との離婚が引き金となって、一気に奈落の底に転げ落ちる可能性もある。



そのとき竜太郎は、再びあの老人と話しがしたくなった。
どうしたらいいのかを教えてほしいと思った。
“そんなの自分で決めるものじゃ”と言われるだろうが、竜太郎はとにかく老人の言葉を聞きたかった。

それにもう一度会えそうな気もしていた。
先ほどの電話の最後に“またな”と言っていたからだ。

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