10円玉、消えた
家の中に入った竜太郎は、台所と居間を足早に通り抜け、サッサと二階に上がっていった。

しかし、自分の部屋にいても、下からの言い争いがハッキリと聞こえてくるからたまったものではない。



「あんた、どこの女かって聞いてんだよ」

「知るか、そんなもん」

「まだトボケる気?」

「知らねえもんは知らねえって言ってんだよ」

「毎晩毎晩遊び歩いて、もういいかげんにしてよ」

「うるせえな、まったくよ。いいかげんにしてもらいてえのはこっちだ」



聞くに耐えない言葉の数々。
もう最悪だ。

すると、その交差する怒声の合間を縫って、ジリリリ!と電話が鳴った。

ところがその音が二人の耳には全く入らないようだ。
電話はしつこいほど鳴り続いていた。

ジリリリ、ジリリリ…

学生服を脱ぎ、着替えの途中だった竜太郎だが、慌てて部屋を出て下に降りた。
そして鳴り響く黒電話の受話器を素早く取った。

「はい『らあめん堂』です」

「リュウちゃんかい?黒部だけど」

「あ、タカさん」

「え~っと、今日はラーメン2つ頼むよ。大至急ね」

「毎度ありがとうございます」
竜太郎は受話器を置いた。

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