10円玉、消えた
「こんちわ」

「あれ?リュウちゃん。この時期にこっちに来るなんて珍しいな」

「まあね。長期休暇を取ったんだよ」

「まあタマにゃまとめて休むのもいいんじゃねえの」

「今日は奥さんは?」

「いま買い物行ってる。まあそこ座んなよ」

竜太郎は近くの丸椅子に腰を下ろす。
この椅子にはもう何百回と座ったことだろう。

「タカさんいつもすまんね。ウチのお袋のこと気にかけてくれて」

「何をそんな水臭い。でもお袋さん相変わらず元気だよな」

「うん、俺も安心だよ」

「ところで何かあったんだろ?」
黒部が突然そう聞いてきた。

「え、わかる?」

「ハハハッ、リュウちゃんの顔、もう何年見てきたと思ってんだよ。来たときの顔見てすぐわかったさ」

「まいったな。実はね…」
竜太郎は離婚の件を黒部に洗いざらい話した。

昔からこの黒部には包み隠さず何でも話している。
但し、三間坂老人のことだけはなぜか一切言っていない。
だがそれも近いうち全て話すつもりである。

「そりゃ大変だったな」

「なあに、俺が女房に無頓着過ぎたんだよ」

「まあまだ休暇は残ってるんだろ。暫くこっちでゆっくりしてきなよ」



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