10円玉、消えた
「元気だったか?」
と源太郎が尋ねる。

「まあまあかな」

すると源太郎は意地悪な笑みを浮かべる。
「嘘つけ。女房が出てっちまってかなり落ち込んでたんだろ」

「なんでそれを知ってんだい?」

「お前のこたぁ全部あの三間坂って爺さんから聞いたぜ」

「え、会ったのか?」

「今日電話が来た」

「何時頃に?」

「午前中だったな。10時か10時半くらいだと思う」

どうやら老人は竜太郎との電話の後、間もなく源太郎に連絡を取ったようだ。

「でもあの爺さんとはこれまで何度も電話で話しててな、お前の近況はその都度教えてもらった」

妙な話だ、と竜太郎は首を傾げる。
そもそも源太郎はあの老人を憎んでいたはず。
なのにそんなにマメに電話で話しをしていた間柄だとは。

「じゃあ父さんは母さんのことや店の状況は全部知ってたのかい?」

「ああ、爺さんが全部教えてくれた。おっとさっきから“爺さん”なんて言ってるが、俺もそうだよな、ハハハッ」

笑う源太郎に対し、竜太郎は少し腹を立てていた。
「家が大変な状況だってわかってたのに、なんでもっと早く帰って来ないんだ?母さんは年下の男と出来ちまうし、そいつに店譲っちまうし」

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