10円玉、消えた
「まあそうだけどよ、こっちぁ逃げた方だからな、どうしても戻る気にゃなれなかったんだ。それに爺さんにもまだ帰る時じゃねえって言われたんでな」

「じゃ今日は“帰れ”て言われたんだな」

「そうだ。この公園に夕方5時頃行けってな。急だったんでかなり遅刻しちまったがな」



やはりこの再会はあの爺さんが仕組んだのか。
でもわからない。
憎んでいたはずの爺さんの言うことに、なぜ親父はそこまで忠実になるんだろう?
まあそのうち親父の口から説明されるとは思うが。



「ところで父さんは30年も何をやってたんだ?」
竜太郎は話題を変えた。

「最初の2年くらいは工場勤めをしたんだが、結局はラーメン作りよ」

「またどっかで店でも構えたのか?」

「そんな金持ってるわけがねえよ。屋台やったり、方々の店を転々。つまりラーメン作りの渡り職人てな感じよ。いまもちゃんと現役だぜ」

その驚異的若さの秘密はそれだったのか、と竜太郎は納得する。

「父さん結婚は?」

「流れモンが結婚なんてできるわきゃねえよ。まあ他にも色々聞きてえだろうが、最初っから話してやる。普通じゃ信じられん話だが、あの爺さんを知ってるお前なら信じられるさ」


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