10円玉、消えた
黒部は穏やかな口調で言う。
「ところでリュウちゃん、ラーメン屋の件だけどさ。思いつきかなんかで考えたんじゃなく、そういった経緯なら俺も充分納得できるよ」

「ただ、やっぱり俺もタカさんみたいに占いなんてやらなきゃよかったって思うよ。あの爺さんにいいように振り回されてるみたいでさ」

「いや、俺は占いを断ったんでそれっきりになったけど、あの爺さんは決して悪いヤツじゃなさそうだった。雰囲気でわかるよ。リュウちゃんが間違った道に行きそうなのを正そうとしてるんじゃないかな」

「う~ん、でもなあ…自分で決めた道を歩きたいってこだわりもあるし、それに突然会社を辞めるってのもみんなに迷惑掛かるしなあ」

「会社のことがどうのってのは、いまは置いといた方がいいと思う。そんなこと考えてたら誰も転職なんてできなくなるだろ」

「確かにね…」

「さっきの話みたいに、どっちの道がリュウちゃん自身の充実感を得られるものかってのを考えた方がいいんじゃないか」

「そうだね」

あとは爺さん曰わく、俺自身忘れている“大事なこと”てのは一体何かだな、と竜太郎は思った。
さっきまでの深い迷いは殆ど消え去っていた。



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