10円玉、消えた
その日の夕食の最中、竜太郎はふと考えた。
父さんはもし俺がラーメン屋をやらなかったら、また家を出てしまうのだろうか、と。

実際、源太郎は今回の突然の帰宅の本当の理由を、幸子にはまだ話していない。
幸子の方は当然源太郎の真意はわからないが、夫がそばにいるということだけで満足なのだ。



「父さん、まさかもう家を出たりしないよな」

竜太郎の言葉に、源太郎は一瞬ドキッとする。
「そ、そりゃ、もう俺だっていい加減一つ所にいてえさ」

すると幸子が、悪戯な笑みを浮かべて言う。
「また30年間ブラブラしたら。もう慣れっこだから、私ゃ全然平気さ」

「バカ言え、あと30年も生きてられっか。まあいま働いてる店にゃ休みをもらっただけだからよ。一度は戻ってちゃんと話ししなきゃいかんがな」

続いて竜太郎は、二人に確認したいことがあったため聞いてみた。
「ところでさ、俺は子供ん時ラーメン屋を継ぐって意識が強かっんだけど、あれはやっぱり父さんに“店を継げ”て言われてたからかい?」
その言動を源太郎は不審がる。
「なんで突然そんなことを聞くんだ?」

「いや別に。深い意味はないさ」

「ふぅ~ん…」
源太郎は釈然としない。


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