10円玉、消えた
そこで二人の間を割って入るかのように、幸子が口を挟む。
「そりゃやっぱりそうじゃないかね。この人お前が子供ん時から、熱心にラーメンの作り方教えてたり、ああそうだ、商売人になるんだからってそろばん塾に行かせたりしたよね」

「あの頃はよ、商売屋の息子ってえと大概はそんな感じだった」
源太郎はまるで自分を弁解するように言った。

「ふぅ~ん、やっぱりそうか。あ、母さんお代わり」
と竜太郎は空の茶碗を幸子に手渡す。

幸子がご飯のお代わりを竜太郎に渡しながら言う。
「まあでもそうやっても結局は息子が継がないで終わっちまうのが殆どさ。ここの商店街なんかもみんなそうだからな」

「俺はかなり店継ぐ気になってたよな」
竜太郎はまた二人に確認する。

「そうだ」
と源太郎。

すると幸子が付け加える。
「お前はこの人のこと憧れの目で見ててね、“俺も父さんみたいなラーメンの名人になるんだ”なんて言ってたよ」

「ああ、そんなこと言ってたの覚えてる。但し中学生になってからは全然変わったけどね。誰かさんが遊び呆けるようになったからな。な、父さん」
竜太郎は皮肉を込めて言った。

「けっ、そんなの忘れたよ」



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