10円玉、消えた
小学生まで、俺が店を継ごうと強く思ってたのは、父さんがそう仕向けたからだった。
そして中学生以降は、長男として生まれた義務感・使命感からだ。
やはり元々、店を継ぐことへの俺の積極的な意志はない。

そこら辺に、忘れていた“大事なこと”が隠されいると思ったのたが、どうやら違うようだ。

家がたまたまラーメン屋だったからラーメン屋をやりたいと思ってただけだ。
これがもし菓子屋だったら菓子屋をやりたいと思うだろし、靴屋だったら靴屋をやりたいと思っただろう。



夜更け、竜太郎は部屋で音楽を聴きなが考えごとをしていた。
両親とももう寝た頃だろうと思っていたら、ドアがノックされ源太郎が入って来た。

「竜太郎、まだ決心は着かんようだな」

「ごめん、まだなんだ」
竜太郎は本当に申し訳なさそうに言う。

「まあ考えてみりゃ2日しか経ってねえんだから無理もねえか」
源太郎はやや笑みを浮かべた。

「ところで父さん、さっき言ったのは嘘じゃないよな。もう家を出て行かないってこと」

「ああ、嘘じゃねえ」

「俺それも引っかかってたんだ。もし俺がラーメン屋やらないって言ったら、父さんまた出てくんじゃないかってね」


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