10円玉、消えた
竜太郎は幸子との話しを終えると、家を出て『黒部サイクル』へ行った。
そして黒部にラーメン屋をやることを告げ、それに至った理由も全て話した。

「よく決心したな、リュウちゃん。でもよかったな、これからの方向性がハッキリ決まって」
黒部は当の竜太郎よりも興奮気味だ。

「決断できて俺も気分爽快さ。ここ暫くず~っとモヤモヤしてたからね」

「でもまたこれから準備が色々と大変だな」

「まあね。会社にはキッチリ話しつけなきゃいかんし、住んでるマンションを片付けて売りに出さなきゃいかん。まずそっちからやらんとな」

「店舗はどうするんだい?ここでラーメン屋やったってうまくいきっこねえからな」

「そうだよな。親父はいまの店に愛着があるんで気が進まんだろうけど、やっぱり商売考えるとね。どっかいい物件探さんとなあ」

「リュウちゃんが一旦東京に行ってる間、知り合いに聞いたりして色々当たっといてやるよ」

「ありがとう、タカさん。助かるよ」

“ありがとう、タカさん”て言葉を、これまで何度言ったことだろう、と竜太郎はしみじみ考える。
ホントに俺はタカさんには世話になりっ放しだ。
俺からは何もしてやれないのに、と。


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