10円玉、消えた
翌日、竜太郎は夜9時近くに東京に戻る。
休暇はあと3日。
マンションの片付けを少しずつ始めていこうと思った。

そして長期休暇が終わると、早速退職願を会社に提出。
社長は引き止めようと必死に説得するが、竜太郎は家業を継ぐためと言い張り、退職への強い意志を示した。

会社側はやむを得ず退職願を受理。
竜太郎の6月退社が決定した。

例の新風堂の関谷へのバックマージンの件は、後任の大西に引き継がせることにした。
出世欲の強い大西なら巧くやってくれるだろうと思った。

倉本ら部下たちは、この突然の事態に仰天。
あの部長が、故郷に帰って地味に商売屋を始める。
信じられなくて当然である。

また竜太郎は不動産屋と連絡を取り、マンション売買の件にも動き出す。
こうして身辺整理は順調にこなされていった。



ある日竜太郎は、会社の帰りに部下の倉本と女子社員・白川を連れ、三人で食事をした。

「部長がラーメン屋か…なんかピンと来ないすね」
いきなり倉本がそんなことを言う。

「ピンと来なくて当たり前ですよ。部長はいつもビシッと決まってんだから。倉本さんだったら違和感ないですけどね」
そう言って白川は笑った。



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