10円玉、消えた
質問している間、竜太郎はずっと深刻な表情のままだった。

それを察して黒部が言う。
「リュウちゃん、ラーメン屋を継ごうかどうしようか悩んでるんだろ」

「うん」
竜太郎は小さく頷いた。

黒部はニコッと笑う。
「いまはまだそんなに考え込まなくたっていいと思うよ」

「うん…そうかもしれないけど…」

「そうやって考え込むよりもさ、友達とたくさん遊んだり、ガールフレンド作ったりしてさ、もっともっと青春時代を楽しまなきゃ」

“青春時代”というフレーズを耳にし、竜太郎の頭の中にふと大ヒットした曲のイントロが流れた。

それを遮るように、黒部が竜太郎に聞く。
「リュウちゃん、ガールフレンドは?」

意表を突かれ、竜太郎はしどろもどろだ。
「え、そ、そんなの…ま、まだ、いるわけないよ」

「早く作んなよ。ガールフレンドが出来りゃ、そんな悩み吹っ飛んじゃうからさ」

そこで竜太郎は逆襲に出た。
「俺なんかより、タカさんこそ早く嫁さん見つけなよ」

「うわっ、やられた!そう来たか。まったくリュウちゃんにはかなわんよな」
そう言いながら黒部は苦笑し、その短い髪をボリボリ掻いた。

二人の笑い声が公園に響く。

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