10円玉、消えた
すると近くで声がした。
「竜太郎君かね?」

振り向くと、ベンチの傍で一人の老人が立っていた。

いつの間にそこにいたんだろう?
と、竜太郎は首を傾げる。

「は、はい、そうですけど…」
さすがに竜太郎の素振りには警戒感がありありだ。

それを溶こうと老人は柔和な顔で言う。
「ハハハッ、そんなに怖がることはない。わしゃこの通りの老いぼれじゃ」

頭髪、そして口と顎の髭や眉毛全てが真っ白。
まるで水戸黄門みたいだな、と竜太郎は思った。
そういえば顔も、垂れ下がった小さな目などはよく似ている。

服は上下、グレー系のジャケットとズボンをパリッと着込み、なかなかのおシャレ。
腰も曲がっておらず、ダンディーなお爺ちゃんといった感じだ。

年齢はどのくらいであろうか?
おそらく75はいっていると思われる。

「実はな、わしゃ君のお父さんとは昔からの知り合いでな。三間坂(さんげんざか)という者じゃ。君はわしを知らんだろうが、わしゃ君のことはお父さんから聞いてよく知っとる」

竜太郎は少し安心した。
「あ、そうだったんですか」

「いつかは君とこうして顔を合わせたいと思ってたんじゃよ」

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