10円玉、消えた
ようやく竜太郎は口を開く。
「お前にはこれまで本当にすまないと思っていた。だから、このゴールデン・ウィークを期に会社に長期休暇貰って、二人でゆっくり海外旅行でもしようって考えてたんだ」

そう言った後、彼は鞄からパンフレット類を取り出す。
里美はその目をやや大きく見開いた。

「リ、リュウちゃん…なんでもっと早く、こういうことを気にかけてくれなかったの?もう遅いわ」里美の声には涙が混じっていた。

「遅くないさ」

「遅いよ、遅すぎる」
里美はハンカチで目を拭った。

そこで再び沈黙の時が流れる。
竜太郎は座ることも忘れ、呆然とそこに佇んでいた。

やがて竜太郎が言う。
「里美、男か?男ができたのか?」

すると彼女は呆れた表情で答えた。
「いまはいないわ」

「いまはだと?どういうことだ」
竜太郎の顔が険しくなる。

「ごめんなさい。浮気はもう三回くらいしてたの」

「な、なんだって!」

「リュウちゃんが何も気にかけてくれなかったから、寂しくてつい…。でもいままで全然気づかないなんて、やっぱり私に関心がなかったのね」

「ふざけるな!なんて言いぐさだ。お前の顔なんか見たくない。出てけ!」


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