10円玉、消えた
「差がハッキリと出たことを気にしておるようじゃな」

「気にするなんて程度のもんじゃねえ。俺にゃ大問題なんだよ」

「ラーメン屋は誰かに押し付けられたんじゃなく、自分で選んだ道じゃろ。ならばそれでいいではないか」

「いいわけねえだろ!こんなに差が出ちまったんだ。なあ爺さん、ラーメン屋は間違いだったのか?これから先俺はどうすりゃいいんだ?頼む、教えてくれ」
源太郎はすがるように老人に言った。

「おやおや、ちょいと苦難にぶち当たったくらいですっかり弱気になっとる。情けない男じゃのう」
と、老人はわざと意地悪い言い方をする。

源太郎はカッとなった。
「なんだと!隠居じじいにこのツラさがわかってたまるか!」

老人はため息を漏らして言う。
「いい大人が随分と失礼なことを言うもんじゃ。呆れるわい」

「けっ、爺さん、あんただって悪いんだぜ。他人事だと思って無神経な言い方してよ」

「あんたがいま直面していることなんて、もっと苦労してる人にとっては小さなもんじゃ。実に下らんよ」

「な、なんだと!」

「まあいい。あんたにゃハッキリと教えてやらねばなるまい。真実をな」

「ああ、教えてもらおうじゃねえか」

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