10円玉、消えた
「あんたは成功する道を選ばなかったんじゃ。それが間違いかどうかはわしには評価できん。とにかくあんたは占いの結果には従わなかった、ということじゃ」

「占い?昔やった、あの10円玉を使うヤツのことか?」

「さよう。“平等院”ならラーメン屋、“10円”なら工場。そして出たのは工場の方じゃった。なのにあんたはラーメン屋を選んだ。あのまま工場勤めをしておれば、すんなり成功できたものをな」

そこで源太郎はフッと鼻で笑った。
「おい爺さん、昔のことだから俺が覚えてねえと思って適当なこと言ってんじゃねえよ。あんときゃ確か10円玉は川に落っこっちまったじゃねえか。なんで“10円”の方が出たってわかるんだよ」

「占いなどせんでも、わしには充分わかっておった」

「はあ?」

「わしはな、顔を見ればその者の成功する道が頭ん中にパッと浮かぶんじゃ」

「じゃあなんでわざわざ占いなんかさせるんだ?」

「形式みたいなもんじゃよ。顔を見ただけで“あんたは〇〇の道を選べば成功する”なんて言ったところで、殆ど誰も信用せんからの。じゃから占うときには10円玉に念力をかけて、必ずそっちの面が出るようにしてるんじゃ」

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