10円玉、消えた
「念力だと?爺さん、あんた一体何モンなんだ?」
源太郎は不審な目を老人に向ける。

「あんたの言う通り、単なる隠居じじいじゃよ。ハッハッハッ」
源太郎の視線を意に介さず、老人は豪快に笑い飛ばした。

「けっ、いい気なモンだ。だいいち最初っからわかってるんなら、なんで教えてくれねえんだよ」

「教えてどうなる。あのときもしわしが“工場勤めを続けろ”と言っても、果たしてあんたはすんなり従ったか?」

「…」

「違うじゃろ。あんたはあのとき、本当にラーメン屋をやりたいと思っておった。じゃから占いの結果に関係なくそっちを選んだ。それでいいんじゃ」

「よくはねえよ。こんな結果じゃ」

「人生は結果が全てではない。肝心なのは何をやったかじゃ。それにあんたにはまだ結果など出とらん」

「どういう意味だ?」

「あんたの人生はまだ半分も来とらん。結果なんてのは死ぬときになってわかるもんじゃ」

「爺さん、あんたの言ってることってわけがわからんぜ」

「ハッハッハッ、そのうちわかる。じゃあの、達者でな」

「お、おい、ちょっと待てよ…おい、爺さん…」
源太郎の呼び止める声に背を向け、老人はその場を歩き去っていった。

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