10円玉、消えた
結局源太郎は、老人の言葉から光を見い出せなかった。
いや、しなかったと言う方が正しい。

直面している苦難に立ち向かおうともせず、自分の選んだことに後悔の念を抱くばかり。
挙げ句それを老人のせいにもした。

そしてヤケになった源太郎は、仕事に身を入れず夜遊び放題。
それにより今度は夫婦仲も危機に陥り、状況は益々悪化していったのである。



老人から以上の経緯を聞き、竜太郎は父に一層失望した。
彼の頭の中には、カッコよかった父親の姿は最早何もない。

老人は言う。
「とにかくお父さんはいまが踏ん張りどこなんじゃ。これを乗り越えれば必ず状況は良くなる。だから竜太郎君、お父さんを軽蔑するばかりじゃなく、時々励ましてやってくれ。いまのお父さんには、可愛い息子の励ましが一番なんじゃ」

あんな父さん、元気づけようって気になるわけがない、と思いながら、竜太郎は老人の言ったことに力無く頷く。
いまの彼には、母親の涙の方が重要なのだ。

思い出したかのように老人が言う。
「おっと、結局長話になってしまったのう。すっかり腹ペコじゃろ。そろそろ帰るとするか」

だが竜太郎が老人を制する。
「あ、あの、三間坂さん」

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