10円玉、消えた
幸子が元気さを取り戻し、竜太郎はホッと胸をなで下ろす。
ただ、源太郎がいつまたヤケを起こすか気が気ではなかった。
不気味なくらい大人しいからだ。

それに夫婦仲が戻ったとは言い難いのも事実。
喧嘩をしないだけで、相変わらず二人の間に会話は少ない。

そして幸子の元気さに比べ、やはり源太郎には覇気がない。
サボリや夜遊びをしないだけで、毎日の仕事を無難にこなしているだけという感じだ。

それでもここ2年間の修羅場に比べれば、この上なく平和で穏やかな日々である。
幸子も竜太郎も、このまま何事もなく続くことを願った。



商店街の人々も、皆一応に安堵していた。

「サッちゃんが元気になってよかったよな」

「ああ、離婚間違いナシだと思ったがな」

「あそこまで行きゃだいたいはそうなっちまうんだがよ」

「それにしても、ゲンさんは今度はなんで急に優等生になっちまったんだろ」

「まあな、月とスッポンだもんなあ」

「嵐の前の静けさかも」

「そんな縁起でもねえこと言うなよ。サッちゃんの元気ない様子がだいぶ堪えたんじゃねえの」

「それに高校受験を控えてるリュウちゃんのこともな」

「まあ平和で何よりだ」



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