10円玉、消えた
「喜んでくれるかなあ」

「喜ぶに決まってるって。一丁やってみなよ」

竜太郎は少しだけ考え、やがて心を決めた。
「うん、わかった。やってみるよ、タカさん」

「よし、男ならそうこなくっちゃ」
そう言って黒部は満面に笑みを浮かべた。

「でも、どんな漫画を描けばいいか悩むなあ」

「自転車の話ならいくらでもアイディア出してやるよ」

「自転車?う~ん、それだと自転車レースの話とかになっちゃうなあ。そんなのあのコが喜ぶわけないし」

「ダメかね」
黒部は苦笑する。
やはり彼は恋愛ごとには無頓着な性質のようだ。

竜太郎は悪戯っぽい笑みを見せて言った。
「じゃこうのはどうかな?いつまで経っても結婚できない男の話」

「なんだよリュウちゃん。それ、まるで俺のことじゃないか」

二人はまた大声で笑った。

そのとき竜太郎は、描く題材をすでに決めていた。
いま描いている漫画では、脇役に過ぎない猫の三太郎を主人公にした話だ。

その三太郎がメス猫に恋をして奮闘する展開にしよう。
三太郎を大変気に入っている美登里なら、絶対に喜んでくれるに違いない。

よし、早速今日から描き始めよう!
竜太郎の心は躍った。



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