10円玉、消えた
夏休み中、竜太郎はその“美登里用”の漫画をしゃかりきに描いた。
普段描くより倍の時間をかけて、念入りに仕上げていった。

ところが、ほぼ完成したにも関わらず、竜太郎はその漫画を途中で断念することになった。
美登里にフラれたわけではない。
彼女にはすでに付き合っているボーイフレンドがいたのだ。

しかもそのボーイフレンドは、近所の同級生・友和であった。

わかったのは、珍しく彼と一緒に街に出て遊んでいた際のこと。
会話の中で、まだ友和には読ませていなかった新作を、なぜか彼が話題に出したため竜太郎はおやっと思った。

「トモ、なんで新作の内容を知ってんの?」

「美登里が貸してくれたから読ませてもらったんだ」

「え?美登里?」

「実は俺、いま美登里と付き合ってんだ」



竜太郎は大変なショックを受けた。
それは当然である。

その日家に帰った竜太郎は、完成間近の三太郎の漫画をビリビリに破いてゴミ箱に捨てた。

聞けば友和と美登里は、すでに一学期の途中から付き合っていたらしい。
そんなことも知らずプロポーズ代わりにせっせと漫画を描いてたなんて、とんだお笑い草だ。

竜太郎は自分の愚かさを嘆いた。



< 75 / 205 >

この作品をシェア

pagetop