10円玉、消えた
黒部のアドバイスが効き、竜太郎は徐々に気持ちを切り替えていった。

受験まであと半年足らず。
メソメソしてるヒマはない。
これからが正念場なんだ、と。



そして3月。
竜太郎は、県下で中の上クラスの県立高校に見事合格。
もちろん源太郎も幸子も大喜びだ。
未だ商売が不調の『らあめん堂』にあって、久方ぶりの明るいニュースとなった。

黒部は竜太郎に、合格祝いとして自転車をプレゼント。
客から引き取ったボロい自転車を大改造し、新品同様に仕上げたオリジナルだ。

「リュウちゃん、頑張ってよかったな」

「立ち直れたのはタカさんのおかげだよ。ホントにありがとう!」

黒部の目にはうっすらと涙が滲み出ていた。



そんな矢先、事件は起きた。
笠松夫婦のバトルが再発したのではない。
それよりも遥かに衝撃的なものだ。

竜太郎がめでたく高校の入学式を終えた翌朝、父・源太郎が突然家を出てしまったのである。



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