10円玉、消えた
商店街の人々の心には、以前『らあめん堂』を不謹慎な賭けの対象にしてしまった、という贖罪の念が確かにあった。
しかしそれだけではなく、この商店街にはやはり“助け合い”の精神がしっかりと根付いているのだ。

残された二人にとって、そんな商店街の人々の温かい気持ちは本当に有り難いものだった。
そして幸子は、こんな状況だからこそ気を引き締めなきゃ、と自分に言い聞かせた。



事件三日後に、『一番軒』の山村が『らあめん堂』を訪れた。

『一番軒』は隣り町のショッピングセンター近くにあり、従業員を4~5名雇っている繁盛店。
主人の山村はこの道45年のラーメン職人で人望も厚い。

休業中の閑散とした店内で、テーブルを挟んで山村と幸子が向かい合う。
午前中のため、竜太郎はまだ学校だ。

「すまねえな、サッちゃん。すぐ来るつもりだったんだけどな」

「そんな、かえって申し訳ございません。山村さんにまでご迷惑をお掛けしまして」

「二日前にゲンのヤツが突然やって来てな。話しを聞いてビックリよ。怒鳴りつけて“すぐ家に帰れ”て言ってやったんだが…。サッちゃんや竜太郎君がいるってのに、まったくどうしようもないヤツだ」


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