10円玉、消えた
「ホントにすいません」

「この店はどうするんだい?」

「閉めるしかないです。こんなじゃとても続けていけません」

そこで山村は一つ間を置き、やがて再び口を開く。
「やめるのは簡単だけどな、ひょっとしてゲンのヤツ、心を入れ替えて戻ってくるかもしれん」

「それはないと思いますが…」

「いや、あいつは結構気まぐれなとこがあってな。絶対ないとは言い切れんよ。だからサッちゃん、暫くは辛抱して続けてみたらどうだい?」

山村の意外な言葉に幸子は驚く。
そして当然反論する。
「でも山村さん、私一人じゃとてもできませんよ。それに息子に高校辞めさせてまでこの店をやらせようなんて気、毛頭ありませんし」

そこで山村は笑みを浮かべて言った。
「一つ案あるんだが、どうだい?こっちから助っ人を一人貸してやるってのは」

「有り難いお話ですけど、お給料が…」

「ハハハッ、そんなの心配するなって。当分の間、そいつの分はこっちから出してやるよ」

「でもそれじゃあ…」

「気にすんなよ。丁度独立を考えてるヤツがいるんだ。そいつにはいい勉強だ。腕は確かだし、真面目な男だから安心しな。それで暫く頑張ってやってみなよ」

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